読者諸兄姉へ
『戦争と五人の女』は、太平洋戦争の終戦後、そして、朝鮮戦争の休戦間近である1953年7月、その、僅かひと月の物語です。本作では、そのたった一ヵ月で、繰り返し繰り返し、五人の女が描かれます。
「五人の女」とは、主に戦争という混乱期に翻弄された娼婦たちのことです。娼婦という職業が重要なのではなく、外的な要因に翻弄されていくという、その輪郭が文学になります。
思えば、戦争というものは「個人の力ではどうにもならない世界の理不尽なシステム」の比喩なのでしょう。その「理不尽な暴力」「抗うことができない絶望的な世界の仕組み」は、現代の我々が感じている閉塞感と、とても似ているように思えます。時代が違っても、人間というものの本質はあまり変わっていないのかもしれませんね。
著者の筆致は判然として明快とも言えますが、しかしモチーフは重厚。そのようなテーマを、小説という体系を使い、女性そのものを描こうとしています。
舞台は広島県呉市朝日町。
『この世界の片隅に』(こうの史代著、双葉社刊)を読まれた読書子ならば、リンという遊女が出てきた街として記憶されていることでしょう。時代は10年ほど違いますが、場所は同じです。
それは著者が生まれ育った、故郷でもあります。行間の生々しい息遣いは、そのような背景から生まれているのかもしれません。
また、本作は、これまで中短編を書いてきた土門蘭の、初の長編小説でもあります。
画文集やルポルタージュなどで(つまり、歌人としてインタビュアーとして)定評と人気を集める著者ですが、待望の文芸作品が刊行される運びとなりました。
普段、読書をしていないひとでも読みやすく、しかし、読む時期によっては人生が変わってしまうほどの強い小説です。ぜひぜひ、この機会にお求めください。請御好評。
編集部より
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小説『戦争と五人の女』
著者:土門 蘭
装釘:橋本太郎
仕様:変形四六上製、408頁
定価:2200円(税別)
◆2019年10月1日より随時出荷予定。
【著者プロフィール】
土門 蘭(どもん らん)
1985年広島出身、京都在住。同志社大学文学部国文学科卒。小説・短歌等の文芸作品を執筆するほか、インタビュー記事のライティングやコピーライティングなども行う。著書に、歌集『100年後あなたもわたしもいない日に』(共著・京都文鳥社刊)、ルポルタージュ『経営者の孤独。』(ポプラ社刊)。